経営者の方とお話ししていると、
「もっと社員に任せたい」
「自分がいなくても会社が回るようにしたい」
というご相談をいただくことがあります。
一方で「任せたい気持ちはあるけれど、どこまで任せてよいのか分からない」と悩まれている経営者も少なくありません。
実は、ここで重要になるのが「権限委任」という考え方です。
今回は、経営自走化を実現するために欠かせない、権限委任についてお話ししたいと思います。
権限委任とは?
経営自走化とは、経営者が現場にはりつかなくても売上・利益が上がり、細かいことに口を出さなくても会社が回る状態です。
この状態をつくるためには、いくつかの要素がありますが、今回は「細かいことに口を出さなくても会社が回る状態」について考えてみたいと思います。
こうした状態を実現するためには、管理職や従業員が、それぞれの立場で一つひとつのことを上司に確認しなくても、自ら判断し、実行できることが必要です。
多くの経営者が求める「自律的人材」や「自立した人材」とは、このような人材ではないでしょうか?
では、このような人材は突然現れるのでしょうか。
あるいは、どこかから優秀な人材を採用すれば解決するのでしょうか。
その答えは、どちらも違います。
どんなに優秀な人材でも、
「何を判断してよいのか」
「何は上司に確認しなければならないのか」
が曖昧な状態では、自信を持って行動することはできません。
反対に、自律的に仕事をしていた人でも、その線引きが曖昧な会社では、次第に指示待ちになってしまうことがあります。
このように「誰が何を判断してよいのか」を決め、その権限を委任することを「権限委任」といいます。
権限委任とは、許可された範囲の中で部下に判断する権限を委任することです。
例えば、
- この価格までは自分で決めてよい
- この金額までなら自分で決裁してよい
- この採用は部長が決めてよい
といったように、役職や立場ごとに判断できる範囲を決め、その範囲の中で責任を持って仕事を進めてもらいます。
重要なのは、単に仕事を任せることではありません。
どこまでを任せ、どこからは上司が判断するのかを明確にすることです。
権限委任のメリットと課題
権限委任をすると「本当に任せて大丈夫なのだろうか」と不安になる経営者も少なくありません。
実際、権限委任にはメリットもあれば、デメリットもあります。
経営者がすべてを判断する会社では、情報伝達の誤りが少なく、意思決定も速くなります。
また、従業員へ大きな権限を渡さないため、裏切られるリスクも低くなります。
一方で、中間管理職の発言力が弱くなり、当事者意識を持ちにくくなります。
どんな些細なことでも経営者が判断しなければならないため、経営者が忙しくなり、不在になると仕事が止まってしまうこともあります。
その結果、従業員も当事者意識を持ちにくくなり、会社の成長スピードも鈍ってしまいます。
反対に、権限委任をすると、中間管理職は権限と責任を持って仕事に取り組めるようになります。
その場で意思決定ができるため、確認のやり取りが減り、仕事もスムーズに進みます。
経営者もルーティンワークを委任できるため、より重要な仕事に時間を使えるようになります。
また、従業員の当事者意識が育ち、会社のビジョンの実現にもつながります。
もちろん、情報伝達の誤りや判断ミスが起こる可能性があり、中間管理職へ一定の権限を与えなければならないというデメリットもあります。
しかし、会社が成長し、管理職を置くようになると、こうしたデメリットを踏まえても、権限委任を進めるメリットの方が大きくなります。
5人未満の小規模企業であれば、経営者がすべて判断するやり方でも大きな問題にならないことがあります。
一方で、10人程度まで会社が成長すると、社内管理は一気に複雑になります。
管理職を置き始めるタイミングになったら、権限委任についても考え始めることをおすすめします。
権限委任を進めるうえでの課題
ただし、権限委任は「任せれば終わり」ではありません。
権限委任をしていても、次のような状態ではうまく機能しません。
- 権限に関する具体的な規定やマニュアルがない
- 規定やマニュアルが正しく実行されているかを確認する仕組みがない
この状態では、従業員は何を基準に判断すればよいのか分からず、人によって判断がばらついてしまいます。
その結果、判断ミスやルール違反が起こり、場合によっては会社を裏切るような行動につながる可能性もあります。
権限委任を機能させるためには、関連する規定と、それが正しく運用されているかを確認する仕組みも必要です。
また、すべての判断を一度に委任する必要はありません。
権限は段階的に委任することもできます。
例えば、
レベルC:問題を報告し、上司に判断を求める
レベルB:解決策を提案し、承認を受けて実行する
レベルA:決められたルールの範囲で自ら判断し、実行する
このように段階を設けることで、会社の状況や人材の成長に合わせて、少しずつ権限を委任できるようになります。
権限委任を設計する
では、実際に権限委任はどのように設計すればよいのでしょうか。
まずは、会社の中にどのような権限があるのかを整理します。
権限は大きく、
- 人事権
- 実施権
- 営業権
- 決裁権
の4つに分類できます。
人事権とは、採用や教育、評価、人員異動など、人に関する権限です。
実施権とは、仕事の進め方や設備・機材の使用など、業務の実施に関する権限です。
営業権とは、受注するかどうかや価格設定など、お客様との取引に関する権限です。
決裁権とは、支払いや投資など、お金に関する権限です。
これらの権限を整理したら、次は組織図をもとに、それぞれの役職にどの権限をどこまで委任するのかを決めていきます。
例えば、役員、部長、一般社員といった役職ごとに、
- 人事権はどこまで任せるのか
- 実施権はどこまで任せるのか
- 営業権はどこまで任せるのか
- 決裁権はどこまで任せるのか
を整理します。
そして、それぞれの権限について、
- 採用や評価はどのような基準で判断するのか
- 実施方法や設備の使用はどのようなルールで運用するのか
- 受注価格や受注可否はどのような条件で判断するのか
- 支払いや投資はどの範囲まで認めるのか
といった規定を整備します。
さらに、規定を作るだけでは十分ではありません。
その規定が正しく運用されているかを確認する仕組みも必要です。
例えば、
- 給与や賞与は経営者が予算を決め、最終決定する
- 実施方法はプロセスどおりに運用されているかを確認する
- 受注価格は会計ソフトやCRMなどで価格・粗利・支払期限を管理する
- 売掛金や支払いは会計ソフトやプロジェクト管理ツールなどで予実管理や決裁プロセスを管理する
といった仕組みを整えることで、安心して権限を委任できるようになります。
経営自走化との関係
経営自走化を実現するためには、経営者が細かな判断をしなくても会社が回る状態をつくる必要があります。
そのためには、管理職や従業員が、自分で判断し、責任を持って行動できなければなりません。
しかし、単に「任せる」だけでは、判断基準が人によって変わり、会社全体の方向性がぶれてしまいます。
重要なのは、
- 誰が何を判断するのか
- どのようなルールで判断するのか
- そのルールが守られているかを、どのように確認するのか
までを仕組みとして整えることです。
権限委任は、単なる業務の分担ではありません。
経営者しか判断できない会社から、組織として判断できる会社へ変わるための重要な仕組みです。
経営自走化を目指すのであれば、権限だけでなく、規定や監視の仕組みも含めて整えていきましょう。
まとめ
今回ご紹介した権限委任は、単に仕事を任せるための考え方ではありません。
組織として成果を上げ続けるために「誰が、何を、どこまで判断するのか」を明確にし、その判断基準や運用ルールまで仕組みとして整える考え方です。
会社が成長するほど、経営者一人ですべてを判断することには限界があります。
役職や立場に応じて適切に権限を委任し、その権限を支える規定や監視の仕組みを整えていくことが重要です。
ぜひ一度、自社ではどのような権限があり、それぞれ誰が判断しているのかを書き出してみてください。
権限委任の仕組みを整理することが、経営自走化への大きな一歩になります。
