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「人事評価制度」という言葉を見て、あなたは何を思いますか?
- すでに導入しており、従業員の処遇に対する納得度も高まっている
- 必要なのは分かっているものの、導入すると何が変わるのかが明確になっていない
- 今の自社に導入すべきか迷ったまま、数年がたっている
- そもそも人事評価制度とは何なのか、漠然としていてよく分からない
など、会社の規模や現在の状況によって、捉え方はさまざまだと思います。
人事評価制度というと、給与や賞与を決めるための仕組みをイメージする方も多いかもしれませんが、実際には、会社が目指す方向性を社員に示し、一人ひとりの仕事や成長につなげていくための仕組みでもあります。
一方で、その目的や全体像が分からなければ、自社に必要なのか、いつ導入すべきなのかを判断することもできません。
そこで今回は、人事評価制度の細かな作り方ではなく、
- 人事評価制度は何のためにあるのか
- どのような流れと要素で構成されるのか
- どのようなサインが現れたら導入を検討すべきなのか
という3つの視点から、人事評価制度の全体像を整理します。
人事評価制度の目的
冒頭でも書きましたが、人事評価制度というと、給与や賞与を決めるための仕組みをイメージする方も多いと思います。
たしかに評価結果を給与や賞与へ反映することは、人事評価制度の重要な役割ですが、これは最終的な目的ではありません。
人事評価制度の最終的な目的は、会社が目指す方向性を社員に示し、その実現に向けて、一人ひとりにどのような成果・行動・能力を求めるのかを明確にすることにあります。
例えば、経営者が「売上を増やしたい」「利益を改善したい」「顧客満足度を高めたい」と考えていても、それだけでは、社員は自分が具体的に何をすればよいのか分からないことがあります。
そこで、会社、部門、個人に求める成果を明確にし、会社が大切にする価値観や、役職ごとに求める行動・能力を評価項目や評価基準に落とし込みます。これにより、社員は会社の目標と自分の仕事との関係を理解しやすくなります。
さらに、その基準に沿って社員を評価し、給与や賞与、昇格・降格、人員配置、社員教育などへ反映することで、会社が必要とする人材の成長を促し、組織全体を目指す方向へ動かしていきます。
では、人事評価制度には具体的にどのような効果があるのでしょうか?代表的なものをご紹介します。
社員が自分の現在地と成長の方向性を理解できる
人事評価制度には、社員が自分の現在地を知るための役割もあります。
何ができていて、何が不足しているのか。次の役職や等級へ進むためには(=昇給するためには)、どのような成果を上げ、どのような知識やスキルを身につける必要があるのか。
これらが明確になれば、社員は自分が目指す状態を理解し、成長に向けた計画を立てやすくなります。
自分の仕事が適切に評価され、成長した部分を確認できれば、それは仕事に対する自信にもつながります。
会社から指示された研修を受けるだけでなく、自分に必要な知識やスキルを理解し、会社の方向性に沿って主体的に学ぶこともできるようになります。
上司の細かな指示がなくても動ける状態をつくる
何を目指し、どのような成果や行動が求められているのかが明確であれば、社員は上司から一つひとつ指示されなくても、自分で考えて動きやすくなります。
「上司に言われたから行動する」のではなく、「会社や部門の目標を達成するために、自分は何をすべきか」を考え、当事者意識を持って仕事に取り組めるようになります。
会社が目指す方向性と社員一人ひとりの仕事や成長をつなぎ、社員が主体的に動ける状態をつくることも、人事評価制度の重要な目的です。
外部動機だけに頼らず、社員の成長意欲を引き出す
社員が働く動機には、大きく分けて「外部動機」と「内部動機」があります。
外部動機とは、給与、賞与、昇格、表彰など、外部から得られる利益を目的に働くことです。社員の行動を促す効果はありますが、短期的な動機になりやすいという特徴があります。
内部動機とは、仕事を通じて成長したい、できることを増やしたい、より大きな役割を担いたいといった、自分の内側から生まれる動機です。長期的な成長や主体的な行動につながりやすい特徴があります。
給与や賞与といった外部動機ばかりを強調すると、社員が本来持っていた「成長したい」という内部動機を見失ってしまうことがあります。
そのため、人事評価制度では、成果を給与や賞与へ反映するだけでなく、社員が自分の成長を実感し、次に目指す状態を理解できるようにすることも重要です。
人材に関する判断の基準をつくる
人事評価制度がないと、給与や賞与の査定だけでなく、昇格・降格、配置、採用、教育などの判断も曖昧になりやすくなります。
評価項目や評価基準がなければ、
「なぜ、この社員が昇格したのか」
「なぜ、この社員をこの部署へ配置するのか」
「次の管理職候補には、何が不足しているのか」
「どのような人材を採用すればよいのか」
「どのような教育を行えばよいのか」
といった判断を、経営者や上司の感覚に頼ることになります。
その結果、同じような成果を上げている社員でも評価が異なったり、上司によって評価基準が変わったりする可能性があります。判断の理由を説明できなければ、社員の不公平感にもつながります。
人事評価制度によって、会社が求める成果・行動・能力を明確にすれば、次のような人事判断に共通の基準を持たせることができます。
- 給与・賞与の査定
- 昇格・降格
- 人員配置
- 採用する人材の要件
- 社員教育の内容
- 改善が必要な社員への指導
このように、人事評価制度は、社員を評価するためだけではなく、人材に関するさまざまな判断を支える土台にもなります。
人事評価制度を構築する7つのステップ
ここからは、人事評価制度を構築する基本的な流れを見ていきます。
今回は全体像をつかむことが目的です。各段階の具体的な進め方については、次回以降の記事で一つずつ詳しくご紹介します。
今の段階では、「人事評価制度は、このような流れでつくるもの」と捉えていただければ十分です。
ステップ1.構築チームを編成する
すべての社員が納得する完璧な人事評価制度は、存在しません。
仮に、ある時点で全員が納得できる制度をつくれたとしても、経営環境や事業内容、組織体制、会社が求める人材が変われば、制度も見直す必要があります。
人事評価制度は、一度つくって終わりではなく、運用しながら改善していくものです。
そのため、経営者や人事担当者だけで決めるのではなく、会社の中心となる社員や部門責任者を巻き込み、一緒につくることをおすすめします。
実際の仕事や現場の状況を反映しやすくなるだけでなく、制度をつくる過程を共有することで、完成した制度に対する社員の納得度も高まりやすくなります。
ステップ2.等級を作成する
等級とは、社員の役割や責任、求められる能力などを段階別に整理したものです。一般社員、リーダー、管理職など、それぞれの段階で何が求められるのかを明確にします。
社員にとっては、現在の自分に求められていることや、次にどのような状態を目指せばよいのかを示す道筋にもなります。
ステップ3.役職・等級ごとの評価項目を作成する
評価項目は、大きく「定量評価」と「定性評価」に分けて考えます。
定量評価では、全社・部門・個人のKPIなど、数値で確認できる成果を評価します。
定性評価では、仕事への取り組み方や、役割を果たすために必要な知識・スキルなど、数値だけでは確認できない行動や能力を評価します。
一般社員と管理職では求められる成果や能力が異なるため、役職や等級に応じて評価項目を設定することが重要です。
ステップ4.評価基準を作成する
評価項目を決めただけでは、評価者によって判断が分かれてしまいます。
どのような状態であれば高い評価になるのか、標準的な評価はどの状態なのか、何が不足していれば低い評価になるのかを具体的に定めます。
評価する人が変わっても、できるだけ同じ判断ができる状態を目指します。
ステップ5.点数を定義する
同じ評価項目でも、役職や等級によって重要度は異なります。例えば、一般社員では知識や実務能力を重視し、管理職では部門の成果やマネジメントを重視するなど、求める役割に合わせて点数を配分します。
また、それぞれの評価をどのように点数へ変換し、合計点を総合評価へつなげるのかも決めます。
ステップ6.評価票を作成する
等級、評価項目、評価基準、点数の定義が決まったら、実際の評価に使用する評価票を作成します。
評価結果だけでなく、なぜその評価になったのかを記録できるようにし、評価面談や今後の育成にも活用できる形にします。
社員本人、上司、会社が評価結果を共有し、次に取り組むことを確認できる評価票にすることが大切です。
ステップ7.試行評価を行い、運用方法を整える
評価票が完成しても、すぐに給与や賞与へ反映するのではなく、まずは試行評価を行います。
評価者による判断のばらつきや、評価しにくい項目、現場の実態に合わない基準などを確認し、必要な修正を加えます。
そのうえで、評価の時期、面談の進め方、評価結果を給与や賞与、昇格、配置、教育などへ反映する方法を整え、本格的な運用につなげます。
人事評価制度の導入を検討すべきタイミング
人事評価制度は、従業員数が増えるほど必要性が高まります。
従業員が少ないうちは、経営者が一人ひとりの仕事ぶりや成長を直接確認し、期待する役割を個別に伝えることができます。
しかし、従業員が増え、部門や管理職が設けられるようになると、経営者が全社員の働きぶりを直接把握することは難しくなります。
複数の管理職が部下を評価するようになれば、会社として共通の評価基準も必要です。
そのため、導入時期を考えるうえでは、まず従業員数が一つの目安になります。
一方で、売上や創業年数は、人事評価制度の必要性と必ずしも比例しません。創業して間もない会社でも、急速に採用が進んでいれば必要性は高まります。
反対に、創業から長い年月が経っていても、少人数で経営しており、経営者が全員の働きぶりを把握できているのであれば、大がかりな制度は必要ないかもしれません。
従業員数は10~20名が一つの目安
従業員数で考えると、一般的には10~20名程度から、人事評価制度の構築を検討し始める時期に入ります。
このくらいの規模になると、経営者が全社員を直接評価することが難しくなり、管理職や部門責任者を通じて評価する場面も増えてきます。
20~30名程度になるまでには、会社として一定の評価の仕組みを整えておきたいところです。
ただし、従業員数だけで一律に判断することはできません。人数が少なくても、次のようなサインが現れている場合は、導入の検討を始めた方がよいでしょう。
従業員数にかかわらず、導入を検討すべき6つのサイン
給与や昇格の理由を説明できない
給与や役職を決めていても、「なぜ、その金額なのか」「なぜ、その社員が昇格したのか」を説明できない状態です。
経営者の中では理由があったとしても、基準が明文化されていなければ、社員には伝わりません。
社員に判断の理由を説明できなくなっているのであれば、評価項目や評価基準を整理する必要があります。
社員から不公平感が出ている
頑張っている社員から、「成果を上げても評価されない」「仕事をしていない人と扱いが変わらない」といった声が出始めた状態です。評価基準が曖昧なままでは、会社の判断に対する納得感が低下します。
特に、成果を上げている社員や成長意欲の高い社員ほど不満を感じ、離職を考える可能性があります。
上司によって評価が異なる
同じような仕事をしていても、上司によって評価の厳しさや重視するポイントが異なる状態です。
管理職が増えてくると、それぞれの経験や価値観だけで部下を評価することが難しくなります。誰が評価しても一定の判断ができるように、会社として共通の評価項目や評価基準を設ける必要があります。
社員の成長や昇格の基準が曖昧になっている
社員に「何ができれば次の役職へ進めるのか」「何を身につければ評価されるのか」を示せない状態です。
成長の道筋が見えなければ、社員は何を目標にすればよいのか分かりません。会社側も、誰にどのような教育が必要なのかを判断できず、計画的な人材育成が難しくなります。
管理職が部下をどのように評価・育成すればよいか分からない
管理職を任命したものの、何を基準に部下を評価し、どのような指導をすればよいのかが定まっていない状態です。
評価制度がなければ、管理職自身の感覚や過去の経験に頼ることになり、評価や育成の方法にもばらつきが生まれます。
管理職に部下の評価や育成を任せるのであれば、会社が求める人材像と評価の基準を共有する必要があります。
社長が全社員の働きぶりを把握できなくなっている
従業員が増え、社長が一人ひとりの成果や行動を直接確認できなくなった状態です。
それにもかかわらず、最終的な評価を社長の感覚だけで決めていると、現場の実態と評価がずれる可能性があります。
社長が全社員を直接見なければ評価できない状態から、管理職が共通の基準に沿って評価できる状態へ移行する必要があります。
これらのサインが現れている場合、人事評価制度がないことによる問題が、すでに起こり始めていると考えられます。
最初から複雑な制度をつくる必要はありません。まずは等級、求める役割、評価項目などを整理し、現在の会社に合った仕組みをつくるところから始めたいところです。
経営自走化との関係
社長が全社員の仕事ぶりを確認し、自分の感覚で評価している状態では、社員が増えるほど社長の負担も大きくなります。
社員から見ても、社長や上司の判断をその都度確認しなければ、何が正しいのか分かりません。
人事評価制度によって、会社が求める成果・行動・能力を明確にすれば、管理職は会社共通の基準に沿って部下を評価し、育成できるようになります。
社員も、自分に求められていることを理解し、上司から細かな指示を受けなくても、会社や部門の目標に沿って行動しやすくなります。
さらに、評価結果から社員ごとの課題を把握できれば、必要な教育を計画し、将来の管理職候補を育てることもできます。採用においても、会社が必要とする人材の要件を具体的に定められるようになります。
社長個人の感覚に依存していた評価や育成を、会社の仕組みへ置き換えていく。
人事評価制度は、社員が会社の方向性を理解し、管理職を中心に組織が動ける状態をつくるうえで、経営自走化を支える重要な仕組みの一つです。
まとめ
今回は、人事評価制度の目的、構築の流れ、導入を検討した方がよいタイミングとサインについて整理しました。
人事評価制度では、評価結果を給与や賞与へ反映します。しかし、その最終的な目的は、給与や賞与を決めることではありません。
会社が目指す方向性を、社員に求める成果・行動・能力へ落とし込み、会社が必要とする人材の成長を促し、組織全体を目指す方向へ動かすための仕組みです。
従業員数では、10~20名程度が導入を検討し始める一つの目安になります。
ただし、給与や昇格の理由を説明できない、上司によって評価が異なる、社員の成長基準が曖昧になっているといったサインが現れた場合は、人数にかかわらず検討を始めた方がよいでしょう。
また、人事評価制度は、一度つくれば完成するものではありません。
経営環境や事業内容、組織体制の変化に合わせて、運用しながら見直していく必要があります。そのため、会社の中心となる社員を巻き込み、納得度を高めながらつくっていくことが大切です。
次回以降は、等級、評価項目、評価基準、点数の定義、評価票、実際の運用方法など、人事評価制度を構築・運用するための具体的な内容を順番にご紹介します。
