経営戦略を作りたい、あるいは経営戦略の作り方を学びたいと考えている経営者の方は多いと思います。
一方で、いざ本屋に行ったり動画を探したりすると、情報の種類が多く、何から手をつければいいのか、どう取り組めばいいのか分からなくなることも多いのではないでしょうか?
そこで今回は、経営戦略をどのような順番で、どのように考えていけばよいのかの実践的な手引きを、複数回に分けて解説していきます。
経営戦略の基本構造(What・Why・Howの整理)
経営戦略を考えるうえでは、「戦略」「作戦」「戦術」の違いを整理しておくことが重要です。
戦略とは、攻めるべき所、守るべき所、辞めるべき所を決めることです。
つまり、どこで戦うのか(What)を決めることにあたります。
作戦とは、この戦いに勝つために、どこを集中的に攻めればいいのかを決めることです。
つまり、なぜそこを攻めるのか(Why)を明確にするものです。
戦術とは、具体的な戦い方です。
つまり、どうやって戦うのか(How)を指します。
この3つが整理されていないと、現場では戦術だけが先行し、目の前のやり方ばかりが増えていきます。
その結果、どこに向かっているのかが分からなくなります。
経営戦略があると、組織全体が共通の目標に向かって取り組むことができ、個人は必要に応じて戦術を臨機応変に対応できるようになります。
また、戦略は正しい目標設定にも直結します。
間違った戦術はまだ挽回できますが、間違った戦略は後から挽回するのが難しくなります。
さらに、戦略は優先順位を明確にします。
やるべきこととやらないべきことを整理し、時間の使い方、つまりやるべきタスクの実施の順番を決めることができます。
新しいアイデアを実施する場合、最初は多くの問題が発生します。しかし戦略があれば、チームは目的を共有しているため、問題を乗り越えるモチベーションを持ち続けることができます。
経営戦略の作成手順(商品→顧客→競争→組織)
本屋や動画で迷いやすい理由のひとつが、経営戦略には複数の考え方があり、どこから手をつければよいのか分かりづらいことにあります。
ただ、整理すると、経営戦略は大きくいくつかの種類に分けて考えることができます。
重要なのは、これらをバラバラに考えるのではなく、「順番に沿って考えること」です。この順番が崩れると、戦略全体のつながりが弱くなります。
①商品戦略
まず商品戦略から考えます。新規商品や新規ビジネスモデルの開発を前提に、どんな商品か(What)、どんな対象者か(Who)、新規商品の開発や撤退のタイミング(When)を整理します。
②顧客戦略
次に顧客戦略です。商品が決まらないと顧客は定義できないため、この順番になります。ここで、どんな対象者か(Who)、どんなUSP(差別化点)か(Why)を整理します。
③競争戦略
その次に競争戦略です。定義した顧客に対して、競合とどう勝つのかを考えます。
④マネージメント戦略と人事戦略
そのうえで、マネージメント戦略と人事戦略を考えます。商品・顧客・競争が決まって初めて、会社の運営方法や人の動かし方が意味を持ちます。
では商品戦略の最初のステップを見ていきます。
商品戦略の出発点:SWOT分析
商品戦略を考えるうえで最初にやるべきことは、自社の内部と外部の状況を整理することです。そのために使うのがSWOT分析です。
内部要因としては、Strength(強み)とWeakness(弱み)を整理します。
外部要因としては、PESTEL(Political-Economic-Social-Technological-Environment-Legal)の観点で整理し、その中からOpportunity(機会)とThreat(脅威)を捉えます。
そして重要なのは、この要素を組み合わせて考えることです。
機会×強み=機会を握る
機会×弱み=機会を発揮するために弱みを克服する
危機×強み=危機を乗り越えるために強みを増強する
危機×弱み=潜在リスク、徹底的な変革あるいは撤退
このレベルまで落とし込むことで、戦略が具体的なアクションにつながります。
機会と危機を見極める(PESTEL分析)
SWOTの外部要因を整理するために使うのがPESTEL分析です。
Political(政治)、Economic(経済)、Social(社会)、Technological(技術)、Environment(環境)、Legal(法律)の6つの観点で外部環境を整理します。
政治:グローバル/ローカルの政権交代や、経済・労働・貿易・環境・資本資源・外交に関する政策などを見ます。
経済:多様性、協力・協業の可能性、経済動向、財務動向、設備投資動向、消費動向などを確認します。
社会:地域の特徴、人口構造、収入の分配、消費の傾向、価値観やライフスタイルなどを見ていきます。
技術:IT化や新技術の動向や投資状況などを捉えます。
環境:CSRやエコロジー、環境の安全性などを確認します。
法律:法律規定やセキュリティ、人権保護といった観点を見ます。
この分析は、1人で整理することもできますが、社員と一緒にやることで精度が上がります。
やり方としては、「最近起きた変化」をテーマに、部門ごとに情報を出してもらうのが有効です。
営業は顧客の変化、製造は現場の変化、管理部門は制度やコストの変化といったように、それぞれの立場から情報を出してもらいます。
その情報を一度すべて並べたうえで、「機会」と「危機」に分けていきます。
このプロセスを共有することで、外部環境に対する認識が社内で揃います。
ブルーオーシャンはどこから生まれるか?(現場×AI)
この外部環境分析を実務で使える形にするために重要なのが、現場の一次情報とAIの組み合わせです。
PESTELのようなフレームワークは整理には有効ですが、「お客さんがこんなこと言ってたんだよね」といった現場の一次情報が、意外と重要な戦略のヒントになります。
例えば、群馬県の赤城フーズ株式会社さんの「熱中カリカリ梅」は、熱中症対策としてカリカリ梅の塩分を濃くした商品で、工場で働く人たちがカリカリ梅を食べて仕事をしているという現場の情報がヒントになり開発されました。
このように、ブルーオーシャンにつながる情報は現場から生まれるケースが多いため、現場の声が上がりやすい心理的に安全な環境をつくることが重要です。
一方で、現場の情報だけではマクロトレンドを見落としたり、視点が偏ることがあります。
ここを補うのがAIです。自社の情報をしっかりインプットしたうえで分析を行うと、その内容が入り口になって、忘れていた現場からの情報が浮かび上がることもあります。
そのため、現場の一次情報とAI、この2本立てで進めることがお勧めです。
強みと弱みはどう洗い出すか?(データ×現場)
強みと弱みを洗い出すときに一番ありがちな失敗は、抽象的に考えてしまうことです。
実務で使える形にするには、事実ベースで整理する必要があります。
まず土台として、直近の実績データを見ます。
売上上位の顧客、利益率の高い案件、リピート率の高い商品などを洗い出し、「なぜ選ばれているのか」を分解します。
そのうえで、社員を巻き込む場合は、このデータに現場の具体的な事例を重ねていきます。
「強みと弱みを出してください」と聞くのではなく、「最近うまくいった案件」と「うまくいかなかった案件」を出してもらい、その原因を分解します。
このように、実績データで全体像をつかみ、現場の事実で中身を埋める形で進めると、強みと弱みが具体的に見えてきます。
経営自走化との関係
経営自走化とは、社長が現場にはりつかなくても売上・利益が上がり、主体的な社員によって会社が回る状態のことです。
この状態をつくるうえで、経営戦略や目標設定は土台になります。
何を目指すのか、どこで勝つのかが整理されていない状態では、現場は判断ができず、経営者が指示を出し続ける必要があります。
今回扱っている内容は、その土台をつくるための最初のステップです。
外部環境と自社の状況を整理し、戦略の方向性を言語化することで、はじめて現場で使える判断の前提が整います。
このあと行うワークは、その土台を具体的な形にしていくためのステップです。
分析から意思決定へ(実践ワーク)
ここまでの内容は、SWOT、PESTEL、強み弱みの整理を一体で使うことが前提です。ここからは、実際に手を動かして整理してみてください。
進め方はシンプルで、この順番で進めます。
①外部環境(PESTEL)を書き出す
最近のニュースや業界動向、顧客から聞いた話など、思いつくものをそのまま並べます。
そのうえで、それを「機会」と「危機」に分けます。
②自社の強みと弱みを整理する
感覚ではなく、実績ベースで見ていきます。売上上位の顧客、利益率の高い案件、うまくいかなかった案件などをもとに洗い出します。
③組み合わせて考える
最後に、以下の4つの組み合わせで考えます。
- 強み × 機会
→ 機会を最大発揮するために、強みをどう使うか - 弱み × 機会
→ 機会を取りにいくために、どの弱みを先に潰すか - 強み × 危機
→ 危機を乗り越えるために、どの強みを強化するか - 弱み × 危機
→ このままだとどんなリスクがあるか。改善するのか、やめるのか
この順番で整理すると、「何をやるべきか」が自然と見えてきます。
ここまで落とし込めると、戦略は抽象論ではなく、具体的な意思決定に変わります。
